お題:「笑顔」「正方形」「はがき」

「神様が面白半分でぼくをぶん殴ったとき、ぼくはうまく受け身を取ることが出来なかったんだ」
こんな台詞から始まる小説はたいてい駄作だと思っていい。ぼくは背表紙からカッターを入れて本を分解した。そのままでは上手く燃えないと思い、一枚ずつ焚き火の中に落としていった。季節は夏じゃなかった。
ぼくはページの一部を切り取った。「笑顔」と書かれた部分を正方形に切り取った。定規を使い、丁寧に、正確な正方形を作った。ぼくはそれを口に入れて咀嚼したが、噛み切れずに吐き出し、仕方なく焚き火の中に入れた。唾液のせいでうまく燃えなかったが、そのうちに灰になった。それを見てから部屋へと戻った。
部屋には手紙を書くための木製の机と椅子、そして薄い照明があった。ぼくは椅子に座って引きだしを開けた。ペンと便箋を取りだした。短い手紙だったが、長い時間がかかった。部屋には強いクーラーが利いていた。
「あなたを探しています」
宛名を書くところで破いた。紙片が床に散らばった。それらは正方形ではなかった。
引きだしを開けて絵ハガキを取りだした。その絵ハガキは水色の封筒の中に入っていた。もう何年も前にグリーンランドへ行ったときに1$で買ったものだった。夜空の下を漂ういくつもの流氷のひとつにシロクマが乗っていた。
「あなたを探しています」
今度は多くの時間はかからなかった。