ワイン一杯だけの真実(再読)+人間失格+袋小路の男

村上龍『ワイン一杯だけの真実』
珠玉のワイン小説集。
表現は巧みであるし、構成も、情報を出していくペースもこれ以上ない。
オーパスワン』『シャトー・マルゴー』『シャトー・ディケム』『チェレット・バローロ』が特に良かった。
すでにぼくはこの小説集を四度は読み返しているが、読むたびに官能の湿地の中に足を踏み入れる気持ちになる。
多少衒学的なところが鼻につくが、巻末解説はソムリエによる各々のワインの解説のみとなっているのは粋である。
感じたことを言葉にする必要はない。ただ感じるままに。

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

太宰治人間失格
恥ずかしながら、初太宰です。
自己憐憫によるナルシシズムと、そのナルシシズムに由来する自己憐憫のスパイラル。
他者を見下してしまう自分への劣等と、その劣等を覚えることが出来ない他者への軽侮。
さすが、文章が綺麗であるし、登場人物はこれ以上ないほどのはっきりしたキャラクターを以て眼前に立ち上ってくる。
これほど「キャラが立っている」小説にはなかなかお目にかかれないだろう。

袋小路の男 (講談社文庫)

袋小路の男 (講談社文庫)

絲山秋子『袋小路の男』
芥川賞作家による、中編三本の中編集。
正直、同著者のデビュー作『イッツ・オンリー・トーク』を読んだときは「大したことないな」と思ったけれど、
表題作『袋小路の男』からは確実な力量の上昇が窺えた。
さすが芥川賞作家と言える、独自性のある繊細な表現を使いこなしている。
しかし、それは女性一人称小説の場合に限り、男性一人称小説、あるいは三人称小説を書かせると、はっきり言って力不足の感が否めない。
一日で村上龍太宰治と読んだ後の印象で語るのは酷というものかもしれないが。